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15年片想いしてた人に別れを告げてきた
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64 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/11/24(木) 22:30:44.11 ID:vbuqeZbH.net
それからすぐ、翼一家は日本を旅立った。

俺は空港まで見送りに行った。


好きだとは伝えられないくせに、見送りには行かせてほしいと身勝手な約束をした。

翼は喜んでいた、と思う。


別れはあっさりしてた。

当然、俺と翼は付き合ってるわけでもないし、お互い泣くような間柄でもなかったしな。俺は泣きたかったけど。


これで、ようやく前に進めると思った。

翼のことは忘れようと思った。


いつでも会える距離に、声が聞こえる場所にいたからずっと引きずってたんだ。

そう思い込むようにしていた。


久々に会う翼はやっぱり可愛くて、小学校の頃とは違う大人びた格好をしていた。

まあ、お互い中学1年生だし、今思えばまだまだ子供らしい服装だったけど。


「見送り来てくれるなんて思わなかった」

翼は笑ってた。たぶん、作り笑いじゃなかったと思う。

「向こうで元気にやってね」

俺にはこの言葉が精一杯だった。

寂しいとか、好きだとかそんなことを面と向かって言える人は本当にすごいと思うし、今でも尊敬する。

なのに、彼女はそれが言える人だった。

「…藤森くんと会えないのは、寂しいなぁ」

翼は、少しうつ向き気味にそんなことを言った。

息が止まった。

それくらい驚いた。

まさかそんなこと言われるとは思ってなかったから。


「俺もだよ」

目は泳いでたと思う。

結局はオウム返ししかできなかったけど、彼女の言葉は泣いてしまいそうになるほど嬉しかった。



65 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/11/24(木) 23:13:53.62 ID:vbuqeZbH.net
「また会おうね、藤森くん」

「うん、また会おう」

しばらく翼は俺に手を振って、俺も振り返した。

翼のお父さんとお母さんはとても良い人で、彼女が俺のことを事前に伝えていたのだろう。

「翼と、これからも仲良くしてね」

そう言って、翼一家はゲートの奥に言ってしまった。


もう明日から、俺は彼女のことを忘れて生きていこう。告白もせずに勝手に惚れて、勝手に諦めた。


でも、彼女の一言が、また翼をどうしようもなく好きにさせてしまった。

「高校生になっても、大学生になっても忘れない!藤森くんに会いに行くよ!だから、また一緒に話そう!」


大きな声でそう言った翼は、他の人たちから興味深そうな目で見られていた。いいねーなんて言ってるおばさんもいた。

ドラマみたいだと思った。

だから、俺も彼女の言葉に大きな声で返事をした。


誰に見られてもいいと思った。今なら、笑われても構わなかった。

どこの名前も知らない他人に笑われるより、俺は翼の笑顔が見たかった。


「絶対また会おうね!ずっと待ってるからね!」

好きとは言えなかったけど、頑張った方だろ?

これが彼女に恋をしてもうすぐ7年目の出来事だった。


それからしばらく、中学を卒業するまで、俺は彼女の声を聞くことはなかった。

もちろん、彼女の方から電話がかかってくることもなかった。

それでも片想いを続けて、気づけば9年になっていた。




73 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/11/25(金) 15:16:47.62 ID:09W5ShRG.net
俺は中学で翼を見送った日から心に決めたことがあった。

それは、彼女と対等に話せるような男になること。

具体的にはもっと勉強をして、せめて翼の学力に追い付けるくらいの学力を身に付けること。

彼女に尊敬してもらえるような人間になることだった。


昔から翼に気を使わせていて、肝心な時はいつも彼女のオウム返ししかできない情けない自分を変えたかった。


だから勉強をした。

部活もがんばった。

そんな日々が続いた。


そうすると、なんというか、やっぱり自分に自信がついてくるんだよな。

少しずつだけど友達も増えてきて、卒業を迎える頃には充実した学校生活を送ってたと思う。


実は何度か告白されたりもした。

全部断ったけどね。

頭では諦めようと思ってても、そんなのできるはずなかった。

それくらい俺は彼女が好きだった。

空港で彼女に言われた言葉が、ずっと頭の中で響いてた。



相変わらず、夢にも時々出てきてくれた。

小学校の低学年の姿じゃなくて、ちゃんと成長した彼女の姿だった。

でも、場所は大抵小学校の教室だった。

小学生の高学年くらいに彼女の家を知ったけど、翼との思い出はやっぱりあの教室だったから。


彼女の、また会おうねっていう言葉だけを糧に俺は勉強に打ち込んで、そして高校にも無事に入学が決まった。



74 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/11/25(金) 15:58:42.28 ID:09W5ShRG.net
彼女がニュージーランドから帰国すると知ったのは、俺が高校に入学してすぐのことだった。

これも小中同じの友人から聞かされたことで、どうやら翼と弟だけが帰国することになったらしかった。

ふたりは母方の祖母の家で暮らすようで、俺の家から車で2時間ほどの距離になる。

飛行機で半日かかる距離から、たったの車で2時間弱。


飛び上がるほど嬉しかった。

というか、友達からその話を聞いたとき思わずガッツポーズをしてしまった。

友達には俺が翼に惚れていることがばれてしまったが、そんなことはどうでもよかった。


また翼に会える。

16歳に成長した彼女に会いたかった。

身長は伸びたのだろうか。

髪型は?声は?どんな服を着るようになったんだろうか。


ひとりで妄想してた。

ほんと気持ち悪いと言われそうだが、それくらい彼女に会うのが待ち遠しかった。


俺は中学2年から身長がぐっと伸び、彼女と最後に会った時は150後半くらいだったのに、今では170に届くところだった。

成長した俺の姿を彼女に見てほしかった。


といっても、戻ってくるのは1ヵ月後。

今までは夢にまで見ていたが、今度は眠れない日が続くようになった。



75 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/11/25(金) 16:11:41.33 ID:09W5ShRG.net
本当に好きな人ができると人って変わるんだよな。

もうすぐ翼に会えると思ったら、いても立ってもいられなかった。


オシャレなんかに興味なかったはずなのに、気づけばメンズファッションの雑誌を読み漁っていた。

髪型なんて寝癖を直すくらいで気にしなかったのに、ワックスを買って使ってみたりした。

にきびが出来ないように化粧水なんかも買ったりして、もうなりふり構わずだったと思う。

それくらい翼に俺を見てほしかった。


ただ、日本から帰ってきた先の空港で俺が待ってたらさすがに気持ちが悪い。

これじゃ本気でストーカーだ。

かといって、俺は翼の祖母の家を知らない。

既に携帯は持っていたけど、彼女の連絡先も知らなかった。


だから俺は、少し待とうと思った。

本当は今すぐにでも会いたくて待ちきれなかったけど、中学の時の彼女の言葉を信じたかった。


藤森くんに会いに行く。

そう言ってた彼女だから、日本に戻ってくれば自然とまた会える。

なんとなくそんな気がしていた。




76 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/11/25(金) 16:13:06.87 ID:09W5ShRG.net
>>75
日本から、じゃなくてニュージーランドから、だ

ごめん間違えた。





78 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/11/25(金) 16:29:17.73 ID:09W5ShRG.net
彼女が日本に帰ってきたであろう日から1週間が過ぎたある日の夜。

うちの電話が鳴った。

「俺出るよ」

その時、俺は家族と晩飯を食べていたんだが、なぜかこの電話は翼からだと思った。ただの直感だけど。

そしてその直感は見事に的中してた。


「もしもし、藤森です」

「藤森くん?私だよ、翼。覚えてるかなぁ」


その声は、2年半ぶりに聞く彼女のものだった。

「かなぁ」の言い方が可愛くてよく覚えてる。

相手は私を覚えてるかな?と、不安そうな雰囲気を漂わせたイントネーションだった。

「もちろん覚えてるよ!久しぶり翼ちゃん」

「あ、そのちゃん付け久しぶりに聞いたなぁ」

ふふふと嬉しそうに翼は笑った。

向こうでは当然ちゃん付けの呼び方なんてされないし、日本でも16歳の女の子をちゃん付けで呼ぶ人が少ないんだろうな。

「日本に戻ってきたんだね、おかえり」

「ただいま〜、知ってたんだね」

「まあね」

手応えを感じてた。前に比べて、自然に話すことができるようになっていた。当然顔はニヤついてるけど。

「藤森くんなんか、明るくなってない?」

「そうかな?」

翼のおかげだよ、と思ったけどさすがに恥ずかしくて言えなかった。




82 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/11/25(金) 20:45:07.02 ID:09W5ShRG.net
飯の途中だったことも忘れて、それからしばらく翼と談笑した。

向こうも話したいことがたくさんあったんだと思う。

もちろん俺も話したいことはたくさんあって、親に物陰から見られてることも知らずにいつになく饒舌に話していた。

「…藤森くんに久しぶりに会いたいな」

「俺もそう思ってた」

いくら自信がついても、やっぱり翼のが一歩先にいて、結局オウム返しとなる形で会う段取りが決まった。

あまりにもあっさり決まったもんだから、夢を見てるんじゃないかと思った。


会うのは次の土曜日。

翼は俺の家まで来ると言っていたが慌てて断った。

俺が会いに行くと言っても向こうは了承せず、互いの妥協案で車で1時間ほどかかる水族館に決まった。


こう考えるとデートみたいだよな。

当時の俺もそう思った。

だから当然飛び上がるほど嬉しかったし、もしかして翼も俺のこと好きでいてくれてるんじゃないかと妄想したりしていた。

こんなに次の土曜日が待ち遠しかったことはない。


それからの1週間は授業に身が入るはずもなく、教師に怒鳴られる日が続いた。でも、そんなのどうでもよかった。

土曜日の今頃は何しとるのかなって考えるのに一生懸命で、友達に気持ち悪いと笑われる程度にはニヤけてたと思う。



気づけば金曜日の夜で、前日から心臓が早鐘のように鳴り続けていた。






>>次のページへ続く



 

 

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